食人姫
「それで、何か考えがあるのかよ?麻里絵の家に行くのは良いとして、化け物に食われたら洒落じゃ済まねえんだぞ」


玄関で、戸を開ける前に哲也が小声で呟く。


「気付いたんだよ。俺が襲われた時も、大人達が襲われた時もそうだったけどさ、化け物に見付からなければ大丈夫だと思う」


「……それ、本気か?」


多分大丈夫なはず。


俺と由奈が襲われた時は、田んぼにいた化け物が気付いたから、俺達に接近したんだと思う。


そして、大人達が食われた時も、空中でグルグル回って、品定めをしているように思えた。


もしも、俺の考えと違うと言うなら、俺と由奈は気付かないうちに食われていたはずだから。


それでも、これはただの推測。


そんなのは関係なく、外に出ている儀式を済ませていないやつを手当たり次第に食うかもしれない。


そこは……賭けだ。


「もしも食われたら……ごめんな」


「ごめんで済む事かよ」


そう言いながら、俺は玄関の戸を開けた。


夜の谷……外灯も少なく、民家の明かりもほとんどない。


こんな夜中に出歩いているのは、俺達くらいのものだろう。


どこに化け物が潜んでいるか分からない緊張感の中、俺と哲也は麻里絵の家へと向かった。
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