食人姫
さっきのような素早い動きじゃない。


仏間にいるおかげか、その動きは遅くて、様子を伺うように布団を避けて俺の足元から右隣へと移動する。


落ち着けたはずの身体が、また震え出した。


何かあったら由奈の布団に潜り込む?


そんな余裕なんてない。


恐怖で身体が動かない。


身動き一つ取れないまま、黒い影が俺の布団を捲り、スッと布団の中に侵入して来た。


そして……その手が俺の身体に触れる。


ビクンッと、震えたけど……それだけで何もない。












「大輔、やっぱり起きてた」










は?


その声に慌てて右に顔を向けるとそこには……。


「良く考えたら、僕も化け物を見てたから……一緒に寝ても良いでしょ?」


「お、お前!光!ふざけんなよ、脅かしやがって……」


「えへ、ごめんね」


とは言え、恐怖から一転、急に安心した俺は、腕を光に抱き締められたまま、その日は眠る事が出来た。


33年に一度の儀式。


谷に現れた化け物。


光なら何か知っていそうな気はしたけど、今日は色々あり過ぎたから明日聞こうと。


だけど……次の日の朝、谷の様子は一変していたのだ。
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