真純が俺の部屋に来て、一週間。
俺達は、デパートやホームセンターやスーパーをまわって、真純の生活用品とか、服とか、食器とか、いろんなもんを、親父のクレジットカードで買いまくっていた。
ずっと禁止令が出ていたセルシオも、松永さんに、次に事故を起こしたら、免許証を更新しない、実家に戻る、親父の事務所でバイトする、の三カ条の誓約書を書いて、ようやく取り戻した。

 だけど、俺には、どうしてもスッキリしないことがあった。
それは……
「杉本とは、話したの?」
「何を?」
真純は、オシャレなカーテンを見ながら、面倒そうに答えた。
「いや、だから……俺の所にいること……」
真純は答えない。答えずに、笑顔で言った。
「ねえ、お腹すいた。なんか、食べに行こうよ」
いや、真純、お前……それでいいのか?
 真純は携帯を持っていない。たぶん、杉本に連絡すらしていない。
そんな……薄い関係じゃ、なかったはずなのに……
 俺はちょっと、杉本がかわいそうになったけど、もしかしたら、冷め切ってて、お互い、もう終わりにしたのかもしれない。持ち前の逃避思考で、そう考えることにした。
だから、俺の所に急に現れたんだ。なるほど、そうか。別れたんだ。なんだ、それなら気にすることないか。
 目の前で、真純はトマトソースのパスタを美味そうに食っている。ピンクのTシャツに、ちょっとソースが飛んで、赤いシミができた。
「ソース、飛んでるよ」
「あっ、ほんとだー。もう、落ちないんだよね……」
「新しいの、買えばいいじゃん」
「うん、そうする」
俺達は、オシャレな服屋で、新しいTシャツを買って、親父のクレジットカードで支払いをして、カーテンもついでに買って、家に帰った。

「よう」
久しぶりに、中村が店に来た。
「久しぶりじゃん」
中村はいつものようにビールを飲んで、タバコを吸っている。でも、なんか、様子がおかしい。
「元気してたのかよ」
「まあな」
しばらく、たわいない話をして、中村が気まずそうに切り出した。
「あのさあ、佐倉……」
「何?」
「探してんだよ……」
「何を?」
「……門田さんを」
来た……ついに、恐れていた現実が……
「だ、誰が?」
「杉本」
やっぱり……やっぱりか……やっぱり真純は、黙って出て来たんだ……別れてなんか、なかったんだ……
「念のために聞くけど……違うよな?」
どうしよう……でも、中村に嘘はつけない……ついたって、いずれはバレる。
「ちょっと前に、お前宛に、塾に門田さんから電話があったんだよ」
「な、なんて?」
「いるかって」
「それで……」
「もう辞めたって言ったら、連絡先教えてほしいっていうから、勝手に教えるのもどうかと思って、この店のこと話したんだよ」
「そうなんだ……あのさ、その時に、その、俺が引っ越したことも言った?」
「どこに住んでるのか聞かれたから、一人暮らし始めたからわからないって言った」
そうか……それで……
「なあ……まさか……いるのか?」
もう、正直に言うしかないけど……バカ正直に言えるわけがない。この俺が、正直に言えるわけがないじゃないか。
「す、住むところがないって言うから……」
「お前……だからって……」
「知らなかったんだよ。そんな、そんなつもりじゃなかったんだ。俺はてっきり、もう別れたのかと……」
「門田さんがそう言ったのか?」
「いや、それは……」
中村はため息をついて、呆れた顔で、俺を見た。
「杉本、すげー心配してるぜ?」
そんなこと……俺のせいかよ!
「門田さん、この半年でなんか様子が変わったらしいんだ。……お前のせいじゃないのか?」
「そ、それは知らないよ。ほんとに、その、先週、突然ここに来たんだよ。それまでは、ほんとに一回も会ってなかったし、連絡もしてない。ほんとだって」
いや、知らないことはない。きっとそれは……俺のあの、バカ発言のせい……
「とりあえず、門田さんは元気なんだな?」
「あ、ああ、それは、元気だから……」
「杉本にそう言っとく」
「えっ! 杉本に、言うのか?」
「当たり前だろ? あいつ、心配して、夜も寝ずに探してんだぜ? まあ、これは俺が言うことじゃないかもしれないけど、つきあうんなら、ちゃんとしろよ。このままじゃ、杉本がかわいそうだ」
中村はそう言って、千円札を置いて、出て行った。
はあ……なんてことだ……そんなこと、俺は知らないじゃないか。勝手に真純が俺んとこ来たのに……

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