頭いてぇ……ここ、どこだ?

 俺は窓から見える、ベランダに干してある洗濯物を見た。駐車場の街灯に映るのは、杉本の作業着と、トランクスとTシャツと……おそらく門田真純のパンツとブラジャー。
ああ、ここ、杉本の部屋か……あ、やべ、トイレ、トイレ行きたい。

 あの屈辱のバーベキュー以降、絵理子は本気で狙っているのか、杉本を誘えとしつこくねだり、今日は絵理子の友達二人と、俺と中村と、そして杉本の合コンだった。
女が自分より可愛い女を連れてくるはずがなく、予想通り、絵理子の連れてきた女は、コギャルの腐ったみたいな女で、俺はもうウンザリしていたけど、やっぱり杉本は俺よりもてて、腐ったコギャルと言えども、やっぱり全くおもしろくない。おもしろくない上に、杉本は酒が死ぬほど強くて、せめて酒ぐらいはと頑張りすぎて……記憶がない。はあ、つくづく情けないよな、俺って……
 猛烈な頭痛が、尿意に押されつつあり、仕方なく起きあがった。まだ酒で、頭がクラクラする。襖の隙間から、隣の部屋の明かりが漏れていて、一緒に隣の声も漏れて来た。
「……女の子がおるとか、知らんかったんじゃけ」
「嘘じゃ。知っとったやろ」
ああ、ほんとに杉本は知らなかったんだよ。だって、合コンとか言ったら絶対来ないし。
「ほんまじゃて。……でも、なんもしとらんで」
確かに、なんにもしとらん。まとわりつく絵理子と腐ったコギャルの相手を、嫌な顔一つせずしていただけだ。俺と違って。
「……前のバーベキューん時も、デレデレしとったが」
ケンカか? おもしれえ、やれやれ!
「デレデレなんかしとらん!」
「大きな声出さんで。佐倉くんが起きようが」
もう、起きてるって。
「真純……俺はお前だけじゃて」
「知らん」
「好きやで」
「……信じられん」
「真純、俺がもっと稼げるようになったら……一緒になってつかあさい」
「え?」
「贅沢はさせてやれんが、幸せにするっちゃよ」
「将吾……ほんに、ゆうとる?」
「ああ。真純、愛しとる」
なんだよ……つまんね……つまんねえ!
 しばらくすると、なんか湿った音が聞こえてきた。
これって、キスしてんのか?ちょっと……ちょっとくらい、見てもいいよな?
 俺は注意深く襖を開けた。一ミリ、二ミリ、三ミリ……おおっ!
襖の向こうの二人は、座ったまま抱き合っていて、思いっきり濃厚なキスをしていた。

「生理、終わったか?」
「何ゆうとるん。隣に佐倉くん、おるがよ?」
「寝とるて。だいぶ酔うとったから……」
「そやけど……あ……いけんて……」
杉本の日焼けしたごつい手が、門田真純の胸を弄る。門田真純はタンクトップが伸びたようなワンピース一枚で、相当洗濯してるのか、もうヨレヨレで、脇の辺りから中がチラチラと見え、パンツの線と、胸の突起がありありと映っている。杉本は風呂上がりのままなのか、トランクス一丁で、バキバキの体を、さらにバキバキにさせ、門田真純の首筋や耳を必死で噛んだり吸ったり舐めたりしている。時々小さく門田真純が色っぽい声を出す。
俺はもう尿意も頭痛も忘れ、妄想ではない、リアルなその光景に見入っていた。
「真純……舐めてくれ」
杉本が、胸の突起を指先でつまみながら、トランクスをずらした。
うわぁ……すげぇ……デカ!
門田真純は座ったままの杉本の前に四つ這いになり、驚愕サイズのアレを、口に入れた。杉本は後ろのタンスにもたれて、うっとりと門田真純の顔を見ている。残念ながら、俺からは杉本のバキバキの太ももと、門田真純の長い髪で顔は見えない。時々、杉本が天井を見上げて、体をひくつかせる。
顔……門田真純の顔……顔が見たい……
しばらく、門田真純は一生懸命、杉本の希望通りにして、顔を上げて呟いた。

「将吾……私のこと、好き?」

 その横顔は見たことのない、オンナの顔で、俺はその顔がエロすぎて、思わず股間に手をやってしまった。杉本は門田真純の髪を掻きあげ、さっきまで自分のアレを咥えていた唇に、しゃぶりついた。
「好きに決まっとろうが」
門田真純が両手を上げると、杉本がヨレヨレのワンピースを剥ぎ取った。
……て……峰不二子かよ!
 門田真純の体は俺の妄想を遥かに超え、ハタチとは思えないほどの色気と香気を発していた。二人はもつれながら薄い布団に倒れ、卑猥な音をたてながらキスを交わし、杉本の唇が胸の頂についたピンク色の蕾に吸い付く。門田真純は頂を揺らしながら震え、聞いたことのない、ねっとりとした声で杉本の愛撫を受ける。
「かわいいで……」
杉本の手が門田真純の花柄のパンツにかかると、微かに腰が浮き、そこには何もなくなった。杉本は躊躇なく門田真純の膝を開き、そこに顔を埋めた。びくっ、びくっと門田真純は体を震わせ、杉本の金髪を掴む。やっぱり俺からは門田真純のエロい太ももでそこは見えないし、長い髪が顔にかかっていて顔も見えない。
「めっちゃ、濡れとるで……」
杉本はそう言って、タンスの一番上の引き出しからコンドームを出した。
「俺はつけんでもええんじゃけどな」
「……大学出るまではいけん」
「わかっとるよ」
ああ……入れんだ……杉本が、門田真純に……入っていく……

 門田真純は血走った男の下で、高い掠れた声を出す。杉本はバキバキの体に筋を立て、暴れる女の体を抱きしめる。
「真純……好きじゃ……好きやで……」
杉本……本気で門田真純のこと、好きなんだな……
「東京の女なんかより……お前の方がええ女じゃ……」
杉本は愛おしく門田真純の唇にキスをして、ウナジに顔を埋めた。そして……
一瞬……ほんの一瞬、門田真純の目が俺の目を見た。
いや、わからない。目があった気がした。そして……笑った? 一瞬だし、俺は三ミリの隙間から覗いているし、もう門田真純は杉本の下でエロい顔でエロい声をあげて、エロい体を震わせているし……もう、なんか……俺、何やってんだ……
 虚しさと共に尿意が蘇り、俺はどうしようもなくなったけど、この部屋を今出ることはできない。おそらく、トイレにはセックス部屋を通らなければたどり着けない。とりあえず、二人が落ち着くまで布団で待機しよう。そうするしか、俺に道はない。
「真純……イクで……」
はいはい、早く終わってくれよ。俺は猛烈にトイレに行きたいんだよ。
門田真純の声が聞こえなくなり、ティッシュを取る音が聞こえた。
ああ、やっと終わった……トイレトイレトイレ!
「真純、最高やったで」
「うん」
「溜まっとたわ」
「そうやね」
セックス部屋からは、二人の笑い声が聞こえて、ますます俺は惨めになって、とにかく、漏らさないことだけを考えて、三ミリの隙間から覗くと、杉本がトランクスを穿いて、門田真純がワンピースを着終わっていた。
今だ!
「あー! トイレ!」
俺は寝ぼけたフリで襖を思いっきり開けた。
「お、おう、こっちやで」
杉本はちょっと焦った感じで、トイレの電気をつけてくれた。
はぁ……もう限界だったな……

 セックス部屋には、セックスが終わった直後のカップルが、乱れた布団の上で白々しく離れて座っていた。
「杉本、悪かったなぁ。俺、記憶ねえわ」
「ええっちゃよ。大丈夫か?」
杉本は黒いTシャツを着て、いつものように笑った。その横では、門田真純が三角座りで俯いていた。
 六畳の和室には、小さなタンスと、でかい作業着のかかったハンガーラックと、十四インチのテレビデオと、壁に布団のないコタツが立てかけてあった。
なるほど、そりゃ弁当作ってくるわな……
暗くてわからなかったけど、俺の寝ていた部屋は四畳半の和室で、畳んだ洗濯物と、たぶん、杉本のダンベルと、仕事道具が置いてあった。
 はっきり言って、貧乏だ。貧乏……俺は金持ち。筋肉も、男っぷりも、アレのサイズも、アウトドアも勝てないけど、俺は勝てる。たった一つ、勝てるものを見つけた。
杉本にないもの、それは、金。

 翌朝、門田真純は朝飯を作ってくれて、俺たち三人はコタツで味噌汁とご飯と目玉焼きを食べた。杉本は朝から丼茶碗でご飯をおかわりし、薄いお茶を飲んでタバコを吸い始めた。そして、俺もタバコを咥え、ここぞとばかりに財布から、カッコ良く一万円札を出した。
「なんや、これ」
「泊めてもらって、朝飯まで食わせてもらって、タダってわけにいかないじゃん」
「なんじゃ、そんなこと気にせんでええ」
杉本は笑って、一万円札を俺に押し付けた。
「俺の気持ちだから」
「そんなんええ。友達じゃけ、金なんかいらん」
当然ながらガンとして受け取らない男っぷりのいい杉本に、門田真純が言った。
「もらっとこうよ」
あっさりコタツの上の一万円札を取り、シミのついたエプロンのポケットに入れ、ありがとう、と言った。
「真純!」
「佐倉くんもこれで気が済むんやから。またいつでも来てね」
 門田真純は、初めて俺に向かって笑った。俺だけに、笑顔を見せた。その笑顔は、ハッキリ言って、かわいい。あのガキどもと職員室で笑っていた門田真純より、かわいかった。
もしかして……この女、金か?金が欲しいのか?
 キッチリ髪を一つにまとめ、口紅だけをつけ、白いブラウスに、紺色のタイトスカートの地味な女。俺はこの地味な女を落とす唯一の方法を見つけた。味噌汁を啜る唇は、昨夜この筋肉男のアレを咥えていた。こんなに地味な女なのに、あんなに情熱的な体で、顔で、声でセックスをする。全部俺のものにしたい。その胸も、ケツも、アソコも、唇も、声も、顔も全部。なあ、俺のアレも咥えてくれよ。俺の下でよがってくれ。そしてあの顔で俺を見つめてくれ。
「そうか、そんだら、今日はありがたくもうとくで」
杉本は申し訳なさそうにそう言うと、作業着を着た。
「仕事行くけど、ゆっくりしていきんさい」
「ああ、ありがとう」

 門田真純は玄関で杉本を見送ると、コタツに戻り、食器を片付け始めた。
「夫婦みたいだね」
「幼馴染なの」
「そうなんだ」
門田真純は、黙って食器を洗う。その顔にはもう、笑顔はなくて、いつもの、暗い、大人しい門田真純だった。
「手伝おっか?」
古臭い台所には、せまい流し台と、小さな食器棚と、昭和な冷蔵庫。
「いつまでも田舎者でしょ。私も将吾も」
なるほど。そうなんだ。門田真純は、杉本に満足してるわけじゃないんだ。
俺は、門田真純の反応を試した。
「そんなことないよ。お似合いだよ、二人」
ビンゴ。門田真純は明らかに不満そうな顔をした。俺は確信した。
『都会と金』
これで、この女は俺のものになる。間違いない。
そして俺は、杉本に勝つ。勝って、あいつの一番大切なものを奪い取って、俺に泣きつかせてやる。
『真純を返してくれ』ってな。

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