夏期講習会が終わって、中学のガキ共は二学期になったけど、俺達大学生はまだ休み。
でも、あの事故以来、俺にはセルシオ禁止命令が出ていて、アシはチャリしかない。ということは、ナンパもできないし、デートもできない。

 はぁ……暇。
特に、昼間。家にいても、煙たがられるだけで、つまらないし、俺は何をするでもなく、チャリでウロウロ。ウロウロしながら、考えることは、情けないけど、やっぱり……門田真純……
相変わらず、門田真純はよそよそしい。あの花火の夜が、もう夢だったような気がする。
俺の手をぎゅっと握る門田真純、嬉しそうにかき氷を食う門田真純、目を花火の色に染める門田真純、舌っ足らずに一生懸命話す門田真純、そして……街頭に照らされた、門田真純と……あの唇……
なんでだよ……あんな、ダサい、イケてない……田舎臭い女……
俺は、そんな自分が余計に悔しくて、門田真純への歪んだ思いを助長させていた。

 昼間の公園のベンチには、くたびれたサラリーマンが、タバコを吸ったり、弁当を食ったり、昼寝をしたり。
あー、やだやだ。俺は絶対、あんなうだつの上がらないおっさんにはならないぜ。て、いうか、お前ら仕事中じゃねえの? うん? 仕事中? 社会人は、仕事中?
てことは……杉本も仕事だよな? 門田真純も、暇なはずだ。杉本は仕事でいないはずだ。チャンスは昼! こんなチャンス、逃がすわけにはいかない。団地妻って、こうして出来上がるのか!
ここから、チャリならそんなに遠くないはずだ。行ってみるか……とりあえず、行ってみるか。

 俺はチャリを二十分ほど走らせ、汗だくになった頃、杉本の社宅の前にいた。
……いるのかな? まあ、いなきゃ、いないで……別にいいか。でも……
ドキドキしながらチャイムを押すと、あのワンピースを着た門田真純が出てきて、驚いた顔をした。
「佐倉くん、どうしたの?」
どうしたの? そうだよな、聞くよな。返事、用意してなかった。
「えーと……近くまで来たから……」
そんなわけない。でも、門田真純は、汗だくの俺を見て、うん、と頷いた。
「まぁ、どうぞ」
あっさり俺は、杉本のいない部屋に上げてもらった。


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