残業しないで帰りなさい!

課長、時々あの場所に来ていたのかな?
あの階段の踊り場で手すりに寄りかかって、富士山の方を眺めてたのかな?

風に吹かれる後ろ姿を想ったら、胸がキュンと痛んだ。

私、本当に課長に恋をしてしまったんだ……。
きっと、これを恋って言うんだ。

本当は、エレベーターの前に立つたびに、階段で行ってみようかなって思いが頭をかすめる。
でも、そう思っただけですぐに心臓がバクバク破裂しそうになって、のぼせてしまって、とてもじゃないけど行けそうにない。

課長のことを考えただけでドキドキしてしまうなんて。鼓動がおさまらない胸を押さえて何度もため息をついた。

ドキドキしすぎて、課長の顔も思い出せなくなりそう。

こんな臆病な私に、一歩なんて踏み出せるのかな?

瑞穂は課長のことをヘタレ度数高いなんて言ったけれど、本物のヘタレは私だ。

でももし、万が一またエレベーターがなかなか動かないようなことがあったら、その時は勇気を出して階段に行ってみようかな。

そのくらいしかできない。それが、今の私にできる精一杯だ。
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