コンプレックスさえも愛されて。




それから数ヶ月。
彬さんの抱える仕事の量は半端じゃなくて、とても私が一人で補佐できる状態ではなかった。



自分に仕事の能力がないせいだろうか、と落ち込みもしていたその時。
彬さんの先輩で、以前も補佐をしていたというベテランの松本涼子さんという女性がわざわざ他部署から異動してきた。


彬さんの海外赴任と同時期に、社内で立ち上がった大きなプロジェクトの為に他部署に異動したのだという。
課長直々に口説いて、再び戻ってもらったと発表があった時、課内のテンションが上がった理由を私はすぐに理解できた。



モデルさんか女優さんか、というような、スレンダー美人、という形容がぴったりな女性。
でもそれ以上に、懐が深くて性格も頭もいいその人に、私が適うものなんて何もないと知った。



それまでは、沙耶香沙耶香、と言ってくれていた彬さんが、私を呼んでいたのを半分にして、もう半分で涼子さんの名前を呼ぶようになった。
疎外感、焦燥感、嫉妬、不安。 ――― あの時に感じたのがなんだったのか、それは明確には言い表せないけれど。




< 5 / 38 >

この作品をシェア

pagetop