お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
・同居前



騒がしい教室は、毎日飽きずに繰り返されるラブコールのせい。

そのラブコールは、担任である山嵜慎に向けられてるもの。

休み時間は休み時間で、生徒で一番のイケメンと言われる同じクラスの戸倉隆寬-トクラタカヒロ-に群がる忙しいミーハーな女子軍団。

残すところ後3ヶ月で卒業だが、耳は痛いし、呆れて溜め息が出る。

それもこれも、ドラマのような展開が実際に起こった事が原因だ。

私は第一志望の高校入試を、インフルエンザによる高熱で受けられなかったのだ。

お陰で二次試験のあったこの高校に入る羽目になるとは、担任もお兄ちゃんも、中学時代の友人すらも予想してなかっただろう。

不良が集まる高校ではないが、偏差値は県内でワーストランキング1位2位を争う。

空気が合わない。

目の前で起こる事が馬鹿らしい。

全国的に見れば、普通の成績だった私が、ここでは学年1位。

派手さのない私は、制服も普通に着てる為に模範生と言われてる。

当たり前が当たり前ではないこの学校で、イジメもなく来れた事だけが救いかも知れない。

まぁ、それは私の力でも何でもないけど。



「3学期の初日から、彼氏がお困りみたいだけど?良いのか?」



「新年早々、またそれ?顔だけイケメンが」



隣の席である戸倉の、耳にタコなからかいを流しながら、ハンカチで眼鏡を拭く。

私たちの担任の慎君は、私の彼氏ではない。

お兄ちゃんの、高校時代からの親友だ。
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