麗雪神話~麗雪の夜の出会い~

どこにいても、最近ディセルはぼーっとしていることが多くなった。

今日はセレイアの好意で神殿の仕事に付き添うこともできたが、ディセルは自主的に調べものをするため、一人で図書館に行くことを選んだ。

セレイアが言うには、吟遊詩人の歌の内容がとても気になる内容だったらしい。

雪の神の怒りを買った精霊の話で、もしかするとディセルは彼と同じ境遇の精霊なのではないかというのだ。

ただ、吟遊詩人が怪しすぎるので、わざと誤った情報を流した可能性もあるという。

精霊としての自覚も、何も思い出せないが、何かきっかけがあれば思い出せるかも知れないと、ディセルは精霊に関する文献を一人めくっていた。

しかし、上の空だ。

内容が全然頭に入ってこない。

なぜだろう。

気が付くと、重厚な背表紙の本の前で立ち止まってしまっている。

前回見つけた、恋の本だった。

過去の記憶のことよりも、もっと大事なことのような気がして、ディセルはその本に手を伸ばした。

男女の甘く切ない恋の物語。

読みながら、ふとセレイアの笑顔が思い起こされて、やっぱり神殿に一緒に行けばよかったなどと思い始める。

そう思い出したら恋の本も頭に入らなくなってきた。

机いっぱいに広げた本の山の中に、ディセルはつっぷしてつぶやく。

「会いたい…セレイア…」

なぜたった一日離れただけで、こんなにも会いたくなるのだろう。

気付けば考えているのは彼女のことばかり。

自分は少し…いやだいぶ、変だ。
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