麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
第三章 失恋

数日間、ショックからディセルはセレイアとほとんど口をきくことができなかった。

それどころか、部屋を出ることも、食事を三食とることもろくにできなかった。

出勤前と帰宅後、セレイアが決まって部屋を訪れるが、返事らしい返事はできなかった。

彼女の泣きそうな声…。

セレイアにひどく心配をかけていることはわかっている。

けれど膨らみ始めた想いに、“婚約者”の存在はあまりにも痛手だったのだ。

そうして部屋に閉じこもっていたのは数日で、今ディセルは新しい境地に至っている。

積極的に部屋を出、神殿に出向き、人々の話を聞いて回るようになった。

むろん、ヴァルクス王子についてだ。

姫巫女セレイアと王太子ヴァルクスの婚約が正式にととのったのは、まだセレイアが姫巫女に任じられたばかりの五歳の時だという。

古来より、予言の力でたびたび国難を救ってきた姫巫女という存在。

いつの時代も、姫巫女は人々を支え、崇拝され、他国の侵略に対しては時に有能な軍師となり、国の繁栄の礎となってきた。

その姫巫女を誕生の歴史までさかのぼると、建国の英雄の時代となる。

建国の英雄グラジアの仲間に、予言の力を持つ巫女がおり、その力が建国の大きな支えとなった。また、二人の間に愛が芽生え、巫女が彼の妻となり支えたことから、現在でも姫巫女に任じられた女性は、王家との婚姻が通例なのだという。

年の頃が合えば、特に「王となる者」の妻となるのが通例らしい。

つまるところ…完全なる政略結婚である。

ディセルはその事実に一縷の望みを託して、セレイアに直接たずねてみることにした。

かっこわるくてもなんでも構わなかった。

ただ、この新しい人生でせっかく芽生えた大切な想いを、終わりにしてしまいたくなかった。
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