さちこのどんぐり

~さちことの出会い

いつものアルバイト先からの帰り、時刻は21時を過ぎていた。
暖房の効いていた電車からホームに降りると冷たい風が顔に当たり、
奈津美は右手でコートの襟を閉めた。

改札を抜け、駅通路を左に曲がる。

長いエスカレータを下って、奈津美がいつもの最寄駅前にでると
そこには気の早い大きなクリスマスツリーが飾ってあった。


それは冷たい空気のなかキラキラ光ってて…

「うわ…綺麗…今年も、もうそんな時期なんだな」

そんなこと考えながら…

こんな景色を彼氏と二人で眺める…

ピンクのコートの袖に寒そうに手を引っ込めながら、クリスマスツリーを眺める奈津美の頭の中で、そんな妄想が膨らんでいった。

ふいに小野寺の顔が頭に浮かび、
奈津美は顔がカアッとなるのを感じていた。

駅から15分程歩いた住宅街にあるアパートの自室の前に奈津美がたどり着くと


「にゃー」

入口の脇にある塀のかげに小さなノラネコがいた。

白い猫なんだろうけど、すっかり薄汚れちゃって今はグレー。

奈津美を見て逃げるわけでもなく、かといって近寄ってくるわけでもなく
距離をちょっと保ちながら、こっちを見てるだけだった。



「おいで、おいで…」

奈津美はネコに声をかけてみたが、
ネコは警戒したまま近寄ってくることはなかった。


< 25 / 163 >

この作品をシェア

pagetop