お見合いに来ないフィアンセ
『来ない来ない』はいつか来る前触れ
ホテルにある中華レストランの個室に入ってから小一時間。
私は振袖の中に隠れている腕時計に目をやってから、小さく息を吐き出した。
くるわけない。
今までだって来なかったのだから。今日だって来るはずないのだ。
今日で三度目のドタキャン。
いい加減、気づこうよ。私の両親。
これは拒否の姿勢。相手が嫌だと言っている証拠だ。
それでも来ると信じて疑わない両親に、だれが教えてあげて。
相手は私を嫌がっている、と。
私は円卓に手をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
「美月、どこに行くんだ?」と父親が顔をあげた。
「もう少し待ってなさい。もうすぐだから」と母親。
私は腕時計で時間を確認して、ため息を一つこぼした。
「もう来ないよ。帰るから」
私はスマホの入った小さな巾着を手首にひっかけて、個室のドアに向かって歩き出した。
「美月、もうすぐだから」と母親が再度声をかけて引き留めようする。
私はドアノブに手をかけると、ふふっと笑った。
「これで三度目だよ。同じ相手に三度もドタキャンされてる。今日だって来ない。来るはずない。いい加減に気づこうよ。私たちは金持ちのお坊ちゃんに遊ばれてるって」
私はぎゅっと唇をかみしめてから、ドアを大きく開けた。
そう。私たち家族は、金持ちのお坊ちゃんにからかわれて遊ばれているんだ。