幕末の恋と花のかおり【完】
第一章


帰りのショートホームルームが終わってから、、松田花織は重たい足取りで教室を出た。

右手には竹刀を抱えている。

「花織〜! 今日部活なんだよね……」
ちょうど階段を降りている時、クラスメイトの梨花が来た。
「うん……。」
「うわー! めっちゃサボりたそうな顔してる」
彼女には何も言わなくてもお見通しだ。


今日は一月十三日、華の金曜日。しかし、花織にとっては地獄の金曜日である。

「あー! サボりたい!」
心の奥からの叫び。普段なら友達が笑って終わるのだが、間が悪かった。

「松田? 試合前なのにサボんの?」

後ろから聞こえた先輩の声。
毎回部活にはきちんと言っているのだが、運命とは残酷なものでこんなキャラクターになっているようだ。

「早く来ないと遅刻だぞー。」
「はーい。今行きますって〜。」
ため息をつきながらも花織は一番の良き理解者に別れを告げた。
憂鬱でありながらも、こんな会話さえ、花織にとっては大切な一瞬であった。

「じゃ、梨花! また明日ね〜!」
はーい、という声を確認し、リズミカルにステップを踏んだ


……はずだった。


左足に絡まる何か。
それは紛れもなく、彼女自身を全国大会二位まで連れていった、商売道具のようなものだった。
足の裏から廊下の感触が消える。
視界がゆがむ。
「花織!」
「松田!」
二人のそんな声が聞こえた頃にはもう遅かった。

まるで時が止まったかのような錯覚に襲われ、花織は目を閉じた。



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