*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~

・走り出す

彼女が出て行くのをただ立ちすくんで見ていたオレ。

その時、脳裏にガキの頃からの出来事が走馬灯のように駆け巡った。


初めは小6。

一緒にクラス委員を務めていたAちゃん。

1年間一緒に仕事をして、委員会がある時にはふたりで帰ったりもしていた。

卒業間近のバレンタインにチョコをもらったけど、単なる義理チョコぐらいにしか思わなかったオレはサトシと一緒に教室でそれを食った。

Aちゃんの乙女心を傷つけたとして、しばらくオレはクラスの女子から口をきいてもらえなかった。



次は中2。

サッカー部のマネージャーB子は試合の時、なぜかオレにだけ、レモンのハチミツ漬けを差し入れしてくれてた。

でもオレは『みんなで食べてね』って意味だと思ってて、部員に配ったあげく自分は食べないこともあった。

それを知ったB子は泣きながらサッカー部を辞めた。

「シィ君、サイテー!」という言葉とともに。



そして中3の夏休み。

塾で一緒だったC美とは帰る方向が同じだったので、よく一緒に帰っていた。

ある日、狭い路地でC美は突然オレのシャツを掴んで立ち止まった。

「シィ君……。まだ帰りたくないな……」

そう言って潤んだ瞳でこちらを見つめるC美にオレは言った。

「ごめんっ。今日、ドラマ最終回やねん。おっと、急がな! じゃな!」

その日を境にC美の視線は冷たい物に変わった。




……オレ。

やっちゃった?

また、やっちゃったのか?

『鈍感』という2文字が書かれた石が頭上にのしかかったような気がした。


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