死にに行く。ナイフと馬人間と

タイ人がナイフを俺の腹めがけて突いてきた。


慌てて避けながらタイ人から距離を取り素早く周囲を見る。


一瞬だけ、大きな声を出して助けを呼ぼうかとも思ったがほとんどの人間がトンネル内に居たしあちこちで重機が動いてる為に声は届かないだろうと考えた。


水を飲むために来た休憩所には誰も居ないのは分かっていた。


もしかすると、この痩せたタイ人はそれを確認して俺を襲おうと思ったのだろうか?


舐めやがってと呟く。


俺は後ろに下がりながら休憩所に立て掛けてある込め棒を取った。


込め棒はダイナマイトを込める時に間に粘土を詰めてきちんと押し込む為に使う棒の事だ。


長い方で一メートル弱はある。


内心かなりほっとしたが、ヘルメットの中の髪が汗でびっしょりなのに気付いた。


目に入る汗を素早く拭いながら俺は、込め棒を真っ直ぐ構えた。


俺は、小学校から高校まで剣道をやっていて二段まで取得していたし、全国大会にも出ていたので棒を持てば自信があった。


タイ人は、一瞬怯んだ顔を見せた。


俺は、低く気合いの声を出しながらタイ人の様子を伺う。


面を思い切り打つしかないだろうと思えた。


もしも、外したり相手にダメージを与えられない場合はこちらがやられる。


思い切り面を叩き込む。


間合いは、完全に俺の物になっていたが、思い切り正確に面を叩き込む事は決して簡単ではない。


汗が手のひらも濡らしていたが、気にしなかった。


やらなければ、こちらが、やられる。


外してもやられるかも知れない。


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