最後の恋にしたいから
これは恋?
『そうだよ。浴衣だよ』

そう答えられて、ドキドキした。

課長と初めてのデートは、出だしから夏祭りの約束をして、一日中そのことばかり考えて終わった気がする。

課長が浴衣を着る……それを想像するだけで、思わず口元が緩みそうだ。

「なーんか奈々子、さっきからずっと名越課長ばかり見てない?」

休み明けの月曜日、まだまだデートの余韻が抜けきらない私は、彩乃の指摘に思わず体が跳ねそうになった。

「ま、まさか⁉︎ 気のせいよ、気のせい」

そんなつもりはないのに、無意識に視線が向いていたらしい。

「そうかなぁ? さっきから、手を止めてはチラチラ見てると思うけど」

「そんなことないって!」

ハハハと笑って誤魔化してみたりしたけど、彩乃は目を細めて疑いの眼差しを向けている。

「失恋には、新しい恋がいいって言うもんねぇ」

ん? それ確か、課長も言っていた気がする。
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