不機嫌な君
「俺は島谷を心から愛してる。島谷が思ってる以上に」

「それならなぜ、それを口にしたいんですか?ひとみちゃんがどれだけ不安に思っているのか、金崎さんには、わかりませんか?」

「…彼女を見てればわかる、君には関係ない。…時が来れば、ちゃんと言う」
…そして俺はひとみから手を離した。

…まさか、追いかけてくるとは思わなかった。追いかけられて、動揺したが、この時はまだ、自分の口から言うつもりはなかった。

…しかし、その決意は簡単に揺らいだ。

…潤んだ瞳の彼女を見た俺は、思わず口にしてしまった。

『好きだ』…と。

彼女に何度この言葉を告げようと思ったか。ずっとずっと、心に秘めた想い。

…彼女が俺だけしか見なくなったその時に、告げるはずだったその言葉を、いとも簡単に口にしてしまった。

悪い事ではないのはわかっている。でも、好きな人の涙がこんなにも自分を動揺させることを初めて知った。

…それと同時に、もう絶対彼女を手放したくないと、心底思った。
< 67 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop