不機嫌な君

誘惑…してる?!

…午後から、私はとにかく仕事に集中した。ケアレスミスもしないよう、細心の注意を払い、自分でも驚くほど早く、仕事を終わらせ定時に会社を出た。

…今は、まともに金崎部長の顔を見るのも辛い。見ると、また金崎部長に、八つ当たりしてしまいそう。
悪いのは金崎部長じゃない。…ごくごく普通の自分が悪いだけ。…優姫が悪いわけでもない。ふがいない自分が悪いだけ。

今は、マイナスな考えしかできそうにない。
「・・・はぁ~」

溜息をつき、自分のアパートの前に着いた私は、目を疑った。
「・・・なんで?」

その言葉しか出ない。…だって、仕事で社外に出たはずの金崎部長が、不機嫌な顔で壁にもたれ、タバコを吸っていたからだ。

「…真面目にやれば、ミス一つなく、定時で帰れるんだな」
そう意地悪な発言をした金崎部長。

「…やればできますよ、私だって」
ふて腐れたように答える。…もちろん、金崎部長の顔を見ないようにそっぽを向いたまま。

「…さっさと家に入れろ、待ちくたびれた」
「・・・え?」

その言葉に驚いて、金崎部長の方に目線を向ける。
…すると、金崎部長の足元には、沢山の吸い殻が落ちていた。

「…仕事で社外に出たんですよね?・・・何で待ちくたびれたりするんですか?」
「そんなモノとっくに終わってる。お前と違ってデキがいいんでね」
「・・・」

その言葉に、返す言葉もない。

金崎部長は、そんな私に近づくなり、優しく手を握りしめた。

「…神坂さんが、待ってるって言ってたじゃないですか?・・・何でここに来たんですか?」
「そんなの決まってんだろ?…こっちの方が、俺にとっては重要だからだ」

・・・その言葉が嬉しくないわけがない。・・・でも、それを素直に嬉しいと、どうして言えないんだろう。

「捻くれ者の彼女を持つと、何かと気苦労が絶えない」
「…捻くれ者って・・・!!」

反論しようとしたら、握っていた手を引っ張られ、スポッと金崎部長の胸の中に納まってしまった。
…タバコの匂いと、・・・爽やかな香水の香りが、鼻を突いた。
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