「おい!」

佐久間課長が私に声を掛ける。

「はいっ!」

私は自分のしている仕事を中断して、債券トレーディングブースの左隣の課長の方を向く。

その距離、わずか15cm。

ひぇ~!

チョー緊張する。


だって、この人、ぜんっぜん笑わないし。

それに、冗談だって全く言わない。

上司じゃなかったら、『スルーしたい男NO.1』確定。

由紀ねぇの元上司だったって聞いたけど、よくこんな男の隣で仕事ができたなぁ~なんて感心する。


それどころか、由紀ねぇは……


「悪い人じゃないよ~」


なんて呑気なこと言ってたけど……。

ま、能天気だから、あの人は。



「おい。聞いてる?」

「あっ!はい、聞いてます!」

「このインベントリー(目録みたいな物)にある政保債(政府保証債)、うちの出し客の取り。1億でディーラーからレート出して貰って」

必死にメモして政保債ディーラーのところに行こうとするけど……

「お前さぁ……」

私の腕を捕まえて、佐久間課長が「はぁ~」と溜息を吐く。


「入社して6ヶ月にもなるんだから、こんなことくらいでいちいちメモなんかしてないで頭に入れろよ。

証券会社は時間が命。

メモ取ってる暇があったら、即行動に移せよ」


うっ、出た。

これだから、ヤなんだよ、この人。


「つ、次からそうします」

「今からそうしろ」

佐久間課長は私がメモった紙を剥がすと、ビリビリ破いてしまう。

こ、こいつ……。

「どうした?行けよ。証券会社は……」

「『時間が命』ですね。かしこまりました!」

仕事を一日でも早く覚えて、いつかこいつを見返してやる!



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