妖刀奇譚
今まで思葉が言ってきたことは、あくまで画に対して思葉が抱いた疑問だ。
気のせいだと荒っぽく片付けられてしまう。
そんなものが贋作だという根拠にはつながらない。
(どう言ってやればいいかな……あんまり喋るとぼろが出てこっちが危なくなるし。
二言三言で終わらせられればなぁ……てか、この絵、どっかで見た事あるような気がする……)
思葉が無言になって考え始めると、それまで強気でいた來世は萎れていった。
掛け軸と幼馴染みを不安げに交互に見る。
長谷部がにやりと笑った。
唇の端から黄ばんだ歯がちらりと覗く。
「どうしましたか?
あれだけおかしなところばかりあると主張していましたよね?
ひょっとして、わたしに恥をかかせるための嘘で」
「あっ!」
「うおっ、なんだよいきなり大声出して」
大げさに驚く來世を無視し、思葉はずいと長谷部の方へ身体を傾けた。
「長谷部さん」
「はい?」
「この掛け軸の前の持ち主って誰でしたか?
名前が言えないのなら職業だけでも」
「え、えっとですね、確か古美術界でもかなり有名なコレクターの方ですよ」