妖刀奇譚
「寝ーるーな、解法が分かったなら頑張って最後まで解けよ。
おまえ今回の範囲で点数稼げるの、論理と集合とここぐらいだろうが。
頑張らないとまたピンチになるんだろ、来月の小遣い」
「別にお金のために勉強してるわけじゃないけどさあ……今回の模試も絶対に平均点いかないと思う。
学年の底辺を爆走する結果になるんだろうね」
「自分で言うなよ」
思葉はテーブルに額をくっつけたまま首を左右にうだうだと振る。
脇に積んでいる冊子の塔に手を伸ばして、一番上にのっていた日本史の教科書を取った。
適当にページをめくる。
すると、平安時代について記述してあるページがすんなりと開いた。
よく見るようになっているから癖ができたのだろう。
古文単語の確認をしていた來世がそれに気づいて苦笑した。
「思葉、明日の模試は日本史じゃなくて世界史だぞ。
あったとしても、範囲は明治維新でそこは全く出ないぜ?」
「うん、分かってる」
「なんかおまえ最近、よくその章読んでるよな。
この間だって源氏物語読んでたし、平安時代のブームでも来てるのか?」
「なんで知ってるのよ」
「後ろの席だと見えちゃうんだよ」
來世がどういうわけか楽しそうに笑って言う。
思葉は数学に取り組むのを止め、身体を起こして日本史の教科書を眺めた。