「零…お待たせ」


彼を零と呼び捨てにする彼女は、何者な

のだろうか?


彼女に背を押され彼の背後に立ち止まる

と振り返り、つま先からゆっくりと視線

をあげていく。


彼の視線に萎縮し、体が強張る。


「どう⁈彼女綺麗でしょう」


「……着飾れば変わるものだな」


口を手のひらで覆い彼は視線を外した。


(あれで褒めているつもりだから…)


彼女がクスッと笑い、耳元で囁いた。


「真琴…余計なことを言うな」


チッと舌打ちし、彼女を睨むが彼女は動

じずに笑みを浮かべている。


「あら…言葉の足りない従兄の代わりに

代弁をしてあげたのに…」


従兄⁈


彼女と彼を交互に見る私に、誤解した彼

女が答えた。


「私、零のいとこだから安心してね」


安心してねと言われても答えようがない


私は、恋愛感情抜きで彼の彼女役を演じ

るだけなのだから……


「…彼女に綺麗だぐらい言ってあげれば

いいのに……優しくしないと逃げられる

わよ」


やはり、真琴さんは私を彼の彼女だと勘

違いしている。


「あのー、私、副社長の『いくぞ』」


勘違いを正そうとしたのに、彼の言葉が

遮り私の手を掴んで店を出て行く。


手を掴まれたまま、後ろを振り向けば真

琴さんがにこやかに手を振り何かをつぶ

やいていた。


(零の奴…本気ね。これから楽しくなりそ

う…)


待っていた黒塗りの車から峯岸さんが降

りてきて、ドアを開けてくれた。


彼は私を押し込み隣に座ると、ドアを閉

めた峯岸さんが運転席に座り車を走らせ

る。


車中、無言のままで息苦しい。その間、

彼は私の手を掴んだまま離そうとしない



「……副社長…手を離してくれませんか

?」


「零だ…」


「……」


手を離してほしいだけなのに、なぜ自分

の名前を言うのだろう?


「聞こえていないのか?」


「聞こえています」


「それなら、副社長ではなく名前で呼ぶ

んだ」


威圧するように掴んでいる手をぎゅっと

力強く掴む。


今から練習しなくてもいいのに…そんな

に信用ないのだろうか?


「……会場に着き次第、ちゃんと恋人の

ふりをしますから安心してください」


素直に練習に応じない私に彼は苛立った

のか、私に向きを変えると突然キスをし

てきた。


「副……んっ」


抗議の言葉を発しようと口を開けば、い

きなり荒々しいキスをし逃げる私を捕ま

える。触れる唇が腫れたように熱を持ち

出し、何も考えられなくなっていく。

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