悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
違う答えに苛立ち、歯を立てるなんて彼

は何が不満なのか?


「今度は間違えるな…」


「……」


噛んだ肩を労わるように優しいくちづけ

が落ちてきて傷口が疼く。


乱暴な言葉遣いをするくせに垣間見せる

優しさ…に名前を呟いた。


「零…(好きなの)」


優しい素振りで抱くあなたは心を見せて

くれない。


そんなあなたに愛なんて期待しない。


だから、心を隠してあなたの前から消え

るのだから…愛を囁かない。


「……2人きりの時は、そう呼ぶんだ。

これから間違えたら、その場で犯す」


恐ろしい宣言をしているのに、優しく抱

きしめ唇に甘い余韻を残す、そんな飴と

鞭を使い分ける男に敵うはずがなく、洗

脳されていく。


息つく暇も与えず抱いたというのに、涼

し顔でもう一度シャワーを浴びてくる彼

は、クローゼットからスーツを取り出し

着替えている。


ネクタイを締めテーブルの時計を腕には

めると、ベッドの上で動けずにいる私の

背に優しくキスを落とし微笑んでいた。


「しばらく、ここは俺の仮住まいだ。ゆ

っくり休んで行け…着替えは、フロント

に持って来させよう」


彼は私の返事も聞かずに部屋を出て行っ

てしまった。


誰もいない部屋のベッドの上で体を反転

させ天井を見つめる。


私は、何をしているのだろう⁈


退社願いを出したのに受理されず、仕方

なく彼の秘書として距離をとって3カ月

後には退社する。


そう決心したはずなのに、数日も経たな

いうちに決心が崩れ彼と過ちを犯してし

まった。


一度許してしまうと、彼に求められれば

二度、三度と同じ過ちを繰り返す。


きっと、拒めない…あの温もりをまた感

じてしまった私の身体はあの男に支配さ

れてしまった。


報われない恋心とわかっている。


この心だけは…悟られないようにしなけ

れば……固く決意した。


ふと、左手に光る指輪


演技のための道具なのだからと指から抜

き取り、彼のタキシードのポケットから

箱を探して戻す。


ちょうど、フロントからボーイが着替え

を持ってきてくれた。


受け取ると熱いシャワーを浴び、着替え

を済ませて部屋を後にした。


手には、赤いドレスが入ったバック


ドレスを返しに真琴さんのお店に向かう。
< 27 / 69 >

この作品をシェア

pagetop