悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
延々と続く母の話を聞き流し、頭の中は

零のことでいっぱいだった。


たった数日で、こんなに心も身体も彼な

しではいられないようになってしまうな

んて思いもしなかった。


こんなことになるなら首を覚悟して辞め

るべきだったのだ。


だが…すでに遅かった


私なんかには似つかわしくない人


御曹司


いずれ、会社を背負い会社の為に…


数いる令嬢の中から彼に似合う素敵な人

が現れ、私なんかいらなくなる。


そう思えば思うほど、胸が張り裂けそう

で苦しいの。


こんなに好きになってしまうなんて…


ひどい人…


その気もない癖に私を翻弄して、側に置

こうとするなんて…


愛のないキスをするなんて…


身体を重ねるなんて…


罪な男


憎らしいくて愛しい人


憎悪に変わる前にあなたの側を離れる為

にお見合いするわ。


あなたに向く心を別の誰かに向ければ、

きっと忘れられる。


あなただって私を忘れるわ。


でもね…


私にもプライドはあるの。


いつか、ふと頭の片隅にでもいいから私

を思い出してほしい。


だから


記憶に残る別れを印象づけたい。


突然、私がいなくなったらあなたの記憶

に残るかしら⁈


無責任と言われてもいい


あなたの記憶に残るなら…


「胡桃…お見合い写真送っておくから日

曜日、先方とお見合いでいいわね」





私が零のことばかり考えている間に、お

見合いの話が進んでいたようだ。


「…向こうの都合がよければいいわよ」


「先方は、ぜひにって言ってくださって

るんだから必ず話進めるわよ」


「……はぁ」


電話越しだけど、母の意気込みが伝わっ

てくる。


「もう、こんないいお話ないわよ。いく

つもあるお見合い写真からあなたを選ん

でくださってるんだから感謝しなさい」


どうして感謝しないといけないの⁈


30前の女とお見合いして結婚まで考え

てくれてるから⁈


会ってもないの⁈


私の何がわかると言うの⁈


ふっ…


私も人のこと非難できないか。


会社での零、ベッドの上での零のことし

か知らないのに好きになってしまったん

だもの。


「疲れたから切るね」


母との電話を一方的に切り、膝を抱えて

うずくまる。


私…


零以外の人を愛せるようになるのかしら


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