悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
週末を会社で過ごし、朝方応接室のソフ

ァの上で眠りについていた。


カチャとドアを開ける音に目が覚め、虚

ろな目で開いたドアを見れば彼女が入っ

てきた。


もう、そんな時間か⁈


彼女に眠気覚ましにとコーヒーを頼んむ

と、普段と変わらない様子に寂しさを覚

えた。


体を起こし、彼女が作ってきてくれたコ

ーヒーがテーブルの上に置かれる。


ふと見ると、左手の薬指にあるはずの物

がない。


彼女を引き寄せ膝の上に乗せ、彼女の左

手の薬指を撫でながら彼女に質問した。


「胡桃、指輪は⁈」


「…えっ、ホテルの部屋に置いてきまし

た」


どうしてそんな事をするんだ。


戸惑う彼女に優しく問いかける。


「どうしてだ?」


「あの指輪は、演技に必要な小道具なの

で私が持っている訳にはいきません」


はぁ〜


君を側に置くための芝居が裏目に出たの

か⁈


あの指輪は君の物なのに…


そう言えない現状が腹立たしい。


「会社にいる時も、つけてもらわないと

来客の目を欺けないだろう⁈」


「…ですが『俺だ…着替えと一緒に婚約

指輪を持ってきてくれ……どこにある?

』…タキシードのポケットです」


ホテルにいるだろう峯岸に電話をかけ、

彼女に指輪の在り処を聞いた。


『だそうだ…慌てなくていい』


峯岸が来るまで15分程か⁈


「さて、峯岸が来るまで休むか」


今は、2人きりなのによそよそしい彼女

は、掃除をすると膝の上から逃げようと

する。


逃げないようにグッと腰を捕まえた。


「…副社長⁈」


彼女の声とともに倒れるようにソファの

上に倒し覆いかぶさる。


「充電させて…」


2日間、君に会いたいのを我慢していた

んだ。


唇を塞ぎ、彼女の唇を味わう。

啄み何度も優しく触れるだけのキスをし

ているだけなのに、背に彼女の手がまわ

った。


こんな朝の目覚めのキスは初めてだ。


女なら、キュンとするのだろうか⁈


男の俺は、胸がざわつくだけだ。


もっと、触れたくてキスだけで済みそう

にない。


だから……唇を離し己を抑えた。


「随分積極的だね…」


彼女を見つめ、わざとからかうと恥ずか

し気に目をそらしてしまった。


まったく、男の理性を抑えたのに彼女の

仕草一つに負けそうだ。


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