あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
「違うけど………でも、行けない。


だって、見送りなんかしたら………」





きっとあたしは……泣き叫んで、喚いて、縋りついて、彰を困らせてしまうに決まっている。




あたしは黙って俯いた。



千代は何も言わなかった。




あたしの気持ちが伝わったんだろうか。




千代はそれ以上見送りの話はせず、「じゃあ、またね」と帰って行った。





当たり前のような、「またね」の言葉。




未来が来ることを、こんな時代でも、人々は信じて疑わない。




………いや、違うかな。



言葉の上だけでも信じていたいのかも。





そうじゃないと、生きていけない。





それなのに彰たちは、もう、「またね」を言えないのだ。




死ぬのを覚悟して生きるって、どういう気持ちなんだろう。




あたしには全く理解できなかったし、理解したくもなかった。





目を上げると、夏の景色が広がっている。




抜けるように鮮やかな青空。



もくもくと膨れ上がる真っ白な入道雲。



明るい陽射しに煌めく、きれいな緑。



じわじわと鳴く蝉の声。





「ほんと、いい天気………」





あたしの呟きは、虚しく空に吸われて消えていった。






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