あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
ぼんやりと部屋の前に立つ。




無意識に鍵を取り出して、玄関を開けた。




その瞬間。






「…………百合!?」






奥のリビングから、母親が飛び出してきた。





ぼさぼさの髪、化粧の剥がれた顔。






「………このバカ娘!!」






母親は容赦なくあたしの頬に平手打ちをした。




久しぶりだったので、よけきれなかった。





かっと熱くなった頬を押さえて、母親を見る。





マスカラとアイシャドーで真っ黒になった目。




その目から………ぽろり、と涙が溢れた。




母親が泣くのなんて初めて見たから、思わず呆然としてしまった。




母親はぽろぽろ泣きながら、あたしを睨みつける。






「………いったいどこに行ってたのよ!!」






もちろん、戦時中の日本に行ってました、なんて言えない。




あたしは黙り込んで母親を見つめ返した。





「………ったく、本当に困った子ね。


探しに行ってもどこにもいないし………おかげで一晩寝れなかったわよ。


これじゃ仕事にならないじゃないの、どうしてくれるのよ!」






懐かしいお説教を聞きながら、あたしは首を傾げる。





………一晩寝れなかった?




一晩?






< 191 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop