4月初めの、ある日の午後。
会議を終え、外出するために常務で俺の弟でもある博人とオフィスを出た。

ビルの1Fにあるカフェの前を足早に通り過ぎようとした時だった。

「…」

どこからともなく漂う甘い匂いが自然と俺の足を止めさせた。
すぐ横は穏やかな春の陽が降り注ぐ中庭のオープンテラスで。
ゆったりと設けられたテーブルのいくつかにくつろぐ人の姿があった。

――何だ?

甘い匂いを辿るように、その中のひとつの席へ吸い寄せられるように眼が流れてゆく。

「――…!」

眼が止まった先にいたのはひとりの女の子。

ふわりとした透明感あふれる笑顔を浮かべ、

陽射しの中で柔らかなオーラを身に纏う。


「……」

思わず目を細めたのはそのふんわりとした笑顔が眩しく見えたから。


「兄貴、急がないと。――ん?」

2、3歩先へ進んでいた博人がそんな俺に気付き、怪訝そうに立ち止まった。

「あれ、理沙?」

博人の声で女の子から視線を移すと、向かいに座って彼女と話してる子には見覚えがあって。
うちの会社が経営する店にいる子のようだった。

「――すごい数の紙袋だな、買い物か。……一緒にいる子、理沙の友達かな?」
「……」

再び女の子に眼を戻せば、彼女は美人というわけでもなく、ごく普通の感じで。
特別目を引くものは何もない。

――なのに、何故か眼を離したくない。

話をする理沙にふわりと笑う彼女。
そこからはやはり最初の甘い匂いが漂ってきているようで。
ずっとここにいたい衝動に駆られる。


「――…兄貴?…どうかした?」
「……いや、何でもない」

今まで一度も抱いたことのない感情に戸惑ったが、

「行くぞ」

何事もなかったように踵を返し、駐車場へと歩き出す。

「声かけなくていいの?」
「ああ」

――…だが、

鼻を掠めるのはまた甘い匂いで。
振り返られずにはいられない。

「…」

少し遠くなった俺の視界に、眉をしかめ唇をとがらせて怒っているような彼女が目に入る。

――…フッ

その表情がかわいく見えて、笑みがこみ上げる。



……――何だ、これは。

車に乗っても彼女の姿が脳裏から離れず、先ほど感じた戸惑いはさらに大きさを増してゆく。

…――この俺が?
………まさか



―――絶対に彼女を、手に入れたい

そう思うまでに、さほど時間はかからなかった―――





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