俺様御曹司の悩殺プロポーズ
15分の短い情報番組“土曜ミルクカフェ"が終わると、
すぐに技術さん達がセットを片付け始めた。
「お疲れさまでした!」
スタジオの隅にいる、番組担当の田中プロデューサーに声をかけた。
田中プロデューサーは、人のよいおじさんといった風貌。
いつもの無精髭にシワだらけの笑みを浮かべ、
「バッチグー。また来週のミルカフェも、こんな感じで緩〜くいこうなー」
そんなお気楽でのんびりした、評価と次回の指示をくれた。
笑顔でふた言三言会話してスタジオを出ようとしたら、
田中プロデューサーに引き止められた。
「おーい、春っぺ。
そういや、のりさんがオンエア終わったら来いって言ってたわ。
確かに伝えたぞー」
“春っぺ"というのは、私の愛称。
日野小春(ヒノ コハル)24歳。
北海道放送局のアナウンサーとして入社した一年目の春にすぐ“春っぺ”と名付けられ、
その愛称は局内だけじゃなく、お茶の間にも届いている。
“のりさん"というのは……。
その名前に、いくらか顔が強張った。
アナウンス部、部長、
斎藤典明(サイトウ ノリアキ)53歳。
のんびりした社風の桜テレビ北海道の中で、
斎藤部長は希少な厳しい部類に入れてもいいと思う。
普段は優しい人だけど、部長として締めるところはきっちり締めていて、怒るとかなり怖い。