「ねぇ、貴方って、気高いつもり?」


 舞子は振り返るなり、近くに立っている男に向かって、そう言い放った。


「それとも……、ただのバカ?」


 白い肌が眩しい。

 背が高く、すらりとした体躯を晒し、どこまでも透き通るような瞳を向ける舞子。

 怒っているようで、それでいて半呆れたように微笑む。

 榊舞子(さかきまいこ)は傍らにいる翠川孝之(みどりかわたかゆき)と知り合って、初めて毒付いた。


「教師って言っても、人間なのよ。貴方も私も、人を好きになったり、嫌いになったり……」


 舞子のさらさらな髪が、そよ風に拐われて、波打ったように揺れる。

 表情を崩さない翠川の様子をみて、舞子の苛立ちと裏腹に、ぽろぽろと涙が溢れ落ちた。


「理解……できないの。貴方の考えていることが。私には、全然分からないの」


 言葉尻は、消えそうなぐらいに小さくなった。

 しゃがみ込んでしまった舞子の震える肩に、翠川はそっと無言のまま、手を差し延べた。


 微笑んだりしない。

 心の中で、そう、決めていた。


 翠川は傍らの草むらを踏みしめ、舞子が落ち着きを取り戻すまでの暫くの間、自分の罪深さを見届けた。

 二人のいる高台からは、街が見渡せる。

 夕日の色に染まった建物の陰が、さながら、昔栄えた文明の儚さのようなものを感じさせ、翠川には、今にもぐらぐらと、あっけなくこの世界が壊れてゆきそうな、そんな気がしてならなかった。

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