蕾の妖精たち
 学長室の見掛け倒しの扉を閉め、玉井はまた、椅子に腰掛けた。

「えー、理事長は今回の翠川先生の行為を、我が校の将来の汚点となると考え、揉み消すことにしたのです」

「しかし、脅迫ではないですか」

「さっきお見せした金額は、電話の相手の要求額ではないのですよ。そういった方々に、それ相応に掛る手間賃なのです」

「手間賃……」

「理事長は完全に、揉み消して下さいます。ですが翠川先生には、このまま担任として、相川幸乃のクラスを受け持たせる訳にはいきません。取り急ぎ、榊先生に代わって頂きます。それに翠川先生は、謹慎処分としますので、此方から連絡をするまで、自宅待機ということで、お願い致します」

 翠川は何も言えなかった。

「なお、相川幸乃に関しては不問にします。この場合、当然の事であると、ご認識下さい」

 幸乃との行為に及んだかどうかを詮索されず、既に教師として過ちを犯していたことを、翠川は痛烈に知らされた。

 この場合、いかなる理由があろうとも、生徒に罪はない。

 しかし、まさかとは思うが、この事態を相川幸乃が想定してはいないだろうか?


「翠川先生、クビ、と言った訳ではありませんので、お間違いの無きように」

 退室する翠川に、玉井はそう付け加えた。
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