センチメンタル・スウィングス
「こんばんわー、沢村さん」
「あぁ、どうも」

和泉さんは、ただ私だけを見ながら、あっという間に私の目の前に立った。
沢村さんに挨拶したのは、ついでみたいな感じ。
そして、沢村さんの存在を、無視しているようでいて、同時に意識しているような・・・いや。
私と和泉さんが一緒にいるところを、見せつけているような・・・気がする。

ここは和泉さんに合わせたほうがいいの?
でも私、演技下手だし。
何より、何をどう「演技」すればいいのか、全然分からないんですけど!?

和泉さんは、その甘いマスクに、とびっきり極上に甘い笑顔を浮かべて・・・まるで、愛しい恋人を見るように、私を見ている。
そして、私から目をそらさずに、スッと伸びた長く、無骨な指で、肩あたりにある私の髪の毛先をいじりながら、「おまえはもう少し待てなかったのか?先に帰るとかありえねえし」と、少しフテ気味な声で言った。
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