らぶ・すいっち


 
「おはようございます。口紅をお探しでしょうか?」

「ええ……春だし、違う色を使いたいと思ったのだけど。一番の売れ筋はこれなのよね?」

「はい。そのお色はとても人気が高いものです。よろしければお試しされてみますか?」

「そうね……」

 少し渋っている様子のお客様に、私は努めて優しくほほ笑んだ。
 
「口紅などは、一度つけていただくのが一番ですよ。唇の色は皆様それぞれですし、肌色にも関係してきますからね」

「それじゃあ、お願いしちゃおうかしら」

 畏まりました、と軽く頭を下げ、お客様にカウンターまでお越しいただいた。
 カウンターテーブルに、お客様の希望されている人気色、そして私が見立てた色を二本ほど目の前に並べる。

「まずは、人気のお色から試されますか?」

「ええ。お願い」

「畏まりました。では、失礼いたします」

 お客様が付けてきた口紅を取るため、リップ専用クレンジングをコットンに取り、優しく落としていく。

 次に軽くファンデーションをつけ、唇の輪郭を消したあと、筆を使い唇に口紅を乗せた。


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