らぶ・すいっち




「えっと、順平先生」

「なんですか? ほら、そこに菜箸を置いておけば、深く切り込みをいれてしまうという失敗はなくなりますよ」

「あ、はい」

 まな板の上に置いた大根を挟むように、菜箸を置く。
 今日の授業でもやったテクニックだ。とにかくザクッと勢いよく切ってしまわないように注意していけば出来るはずだ。

 と、いうかこの体勢はやっぱりいただけない。
 そうでなくても手元を順平先生に見られているというだけで緊張するというのに、私を包み込むような形で順平先生に背後に立たれるのは心臓にあまりにもよろしくない。
 私は、背後にいる順平先生を見ないように口を開いた。

「順平先生。ここからはグループの皆さんと一緒にやりましたから、たぶん出来るかと思います」

「そうですか?」

「ええ! ですから、一人でやってみますね」

 暗に“私から離れて下さい”と言ったつもりだった。しかし、順平先生は私から離れようともしない。
 困り果てている私に、順平先生は低くて魅惑的な声で囁いた。

「いいえ。私が手取り足取り教えてあげますよ」

「え……」

「君が一人で上手に料理ができるようになるまで、ね」

 言葉だけを聞けば、とても優しくて頼りになる先生だと絶賛することだろう。
 現に口調もとても優しかった。だけど—————

(なんだか背筋がゾクゾクとしたのは……私の気のせい?)

 ドキドキとゾクゾク。この感情の意味するところは一体……?
 ふれあう肌から伝わる順平先生の熱を感じ、また私は体温を高めてしまったのだった。




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