らぶ・すいっち




「彼女は忙しいからダメですよ。今日もこのあとから居残り勉強がありますからね」

 慌てて振り返ると、そこには無表情で眼鏡を指で押し上げている順平先生がいた。
 怖いぐらいに無表情で、先生の今の感情が読めない。
 しかし、なぜか周りのおば様たちは手に手を取り合って喜び勇んでいる。
 それも声にならない黄色い声で叫んでいるように見えるのは、私だけだろうか。
 異様なほどに盛り上がるおば様たちに、無表情で何を考えているのかわからない順平先生。そして、どこか面白そうにニヤニヤと笑う合田くん。
 三者三様だが、どれも私には理解ができない。
 首を傾げる私を見たあと、合田くんは腹黒い笑みを強くした。

「男の嫉妬ほど、醜いものはないですよ。先生」

 合田くんは何を言い出したのか。嫉妬だなんて、順平先生に限ってあるはずがない。
 思わず噴き出した私を見て、合田くんは不服そうだ。

「なんでそこで笑うんだよ」
「だ、だって……ぷっ」

 考えれば考えるほど笑ってしまう。
 だって相手は順平先生。私のことをからかって遊ぶような人だ。
 きっと私のことなんて“おもちゃ”だと思っているに違いない。
 確かに、彼のお祖母さんである英子先生の誕生日プレゼントを選んだあとからは優しくはなったけど、基本順平先生は私に対して意地悪だ。
 他のおば様たちには、とってもとっても優しいし紳士なのにえこひいきである。
 とにかく、合田君の言葉は的外れもいいところだ。
 笑いをなんとか押さえて、私は合田君を見つめた。


< 63 / 236 >

この作品をシェア

pagetop