【短】溺愛ショコラ
過去に一度だけ、編集長である木戸が工藤の担当になった時があった。
木戸が編集長に昇進することに決まるまで約2年。これが工藤の担当が継続された最長記録。
工藤の担当寿命は、平均2か月だ。最短は1日。
初めて会った日の打ち合わせで、担当を変えろと言ったこともあるほど、工藤は人を受け入れる器が小さい。
『はぁー…。もういい。今日はとりあえず次回の締め切りの打ち合わせで呼んだだけだからな。』
『そんなこと、電話ですればよかっただろ。』
『うるせぇ。お前はもうちょっと外に出ろ。』
『大きなお世話だ。』
木戸の小言を聞き流すのも、いつものことだ。
これ以上は用はないと踏んだ両者は、この場を去ろうとしている時、ドアが開いた。
『失礼しますぅ。お茶をお持ちいたしましたぁー。』
そこには、半年前に担当をクビにした元・工藤の担当の編集者だった。
名前は……なんだっけ。確か、コイツ香水キツいんだったよなー…。
名前は忘れたが、何故クビにしたのかは覚えていた工藤は、お茶汲みの女と一定の距離を保って口を開いた。
『あら、久しぶり~!ゴメンけど、ワタシもう帰るの♪またねん♪』