僕と8人の王子



母に置いて行かれ、正門の前で呆然と立ち尽くす。
‘‘頑張れ”と言われても、具体的にどうすればいいのかよくわからない。

助けが来ないことを悟った僕は、職員室に行ってみることにした。


広い校舎に迷いながら歩いていると『職員室』と書かれた札が見えた。


「失礼します。新入生代表の挨拶をさせていただく、倉瀬日向と申します」


すると、中からまつ毛が長くて肌の白い20代後半くらいの美青年という言葉が似合う男性が出てきた。


「あぁ、倉瀬君ですか。入ってください。私はあなたのクラスの担任になる泉忠也です。担当教科は社会です。これから1年間、よろしくお願いしますね」

「あ、はい」

「早速ですが、倉瀬君には全校生徒の前でコレを読んでもらいます」


そう言って渡されたのは、白い封筒だった。

どうやら『新入生代表の挨拶』というのは、学校側が書いた文章を入試でトップだった生徒が壇上で読み上げることのようだ。

「わかりました」

「では、時間もあまりありませんし、講堂へ向かいましょうか」

「えっ、今何時ですか?」

「8時15分ですよ。」

「嘘⁈」


確か学校に着いたのは7時30分くらいだったはずだ。



校内をさまよっているうちに時間はすっかり経ってしまっていたのだ。

この学校は校舎が広すぎる上に構造が複雑で慣れるのには数ヶ月を要するだろう。
それに加え、寮もあるのだから驚きである。


講堂にはもう生徒が集まっていた。

舞台裏で1度挨拶の打ち合わせをして、8時30分、いよいよ本番である。


「続きまして、新入生代表の挨拶です」


緊張が走った。

コツン、コツン

講堂全体に僕の足音だけが響き渡る。


「皆さんおはようございます。学校職員の皆様、並びに保護者の皆様、本日は朝早くからお集まりいただき、誠にありがとうございます。..............。...............。...............、........................。新入生代表、倉瀬日向」


パチパチパチパチ

頭を下げてそそくさと壇上から遠ざかる。

我ながら今回はよくやれた方だと思う。

舞台裏に行くと泉先生が駆け寄ってきた。


「よかったよ、倉瀬君」


その満面の笑みは想像以上の破壊力で、つい先生から目を逸らしてしまった。

< 6 / 44 >

この作品をシェア

pagetop