不思議の国の女王様

*幻影の貴婦人:ファントム

 
 女王の部屋は、以前訪れた執務室同様、味気のないものだった。


 ベッドだとか姿見が、かろうじて生活感を絞り出しているくらいだ。



「……そんで、どなたもいらっしゃいません、っと」



 閑散とした室内でため息をもらす、と。



『あら、いるわよ』



 広い部屋で首を巡らせる。


 誰もいない。



(待て待て……怖いだろ、そんなの)



『ここよ』



 振り返れば、なんと空間が揺らめく。


 スゥッと現れた1人の女性が、天蓋つきのベッドに腰掛けていた。


 黒いローブをまとい、フードで顔は隠され……。



 アリスは息を呑んだ。


 その女性が透けていたからだ。



「幽霊!?」


『少し違うわ。私は幻影……ファントムよ。そして、ハートの女王の数少ない友人の1人』



 たおやかな声は、鼓膜を震わせるのではない。


 直接頭の中に響いてくる。


 こんな感覚は初めてだ。
 
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