イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
金や権力の前には誰もが屈する。

あ~あ、現実の世界って本当に馬鹿らしい。

私は左手の薬指にはめられたブカブカの結婚指輪を外し、なくさないようハンカチにくるんでバッグの中に入れる。

「私はこれでお役御免だ」

もう考えるのはよそう。

何だか今、無性にチェーン店の牛丼が食べたい。

チェーン店に行きたいなんて両親に言ったら眉をしかめて駄目って言いそうだし、両親には友達の家に寄るとか言って先に帰ってもらおう。

「お母さん、里美の家に寄ってくから先に帰ってて」

控え室のドアを開けて出ていこうとすると、壁にドンとぶつかる。

いたっ!

目を開けて見ると、ブルーのストライプのネクタイが目に映る。驚いて顔を上げると、そこにいたのは……。

「それは駄目だな。勝手な行動は許さない」

壁と思ったのは鷹司さんの胸板で、タキシードから紺のスーツに着替えた彼に腕を捕まれる。
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