落ちる恋あれば拾う恋だってある

私は慌てて口を挟んだ。メンテナンスを2回だなんて毎月のリース代請求額が変わってしまう。副社長付きの宮野さんといえども、うちの部長の許可なしに勝手に判断されては困る。

宮野さんは私の言葉なんて耳に入っていないようで、ニコニコと笑う椎名さんに完全に心を奪われてしまったようだ。

「じゃあ今後は北川さんと相談して。俺は下から新しいの取ってくるから」

担当さんは椎名さんに声をかけると観葉鉢を載せた台車を押してエレベーターを下りていった。

「ではこちらにご連絡下さい」

椎名さんが名刺を私と宮野さんに渡した。

「あ、では私も名刺をお渡しします! 少しお待ちください!」

宮野さんは小走りで秘書室に入っていった。

別に宮野さんが名刺を渡す必要はないと思うんだけど……。

「また会ったね夏帆ちゃん」

先程までの真面目な態度とは変わり、私に話す声は面白がっているようにも感じる。

「どうして弊社にいるんですか?」

「古明橋周辺エリアの担当になったから。偶然だね」

椎名さんは変わらない笑顔を見せた。

「今後もよろしくね」

「はい……」

「お待たせしました!」

宮野さんは通路に靴音を響かせ戻ってきた。

「秘書室の宮野と申します」

「よろしくお願い致します」

椎名さんは再び真面目な口調に戻ると名刺交換を済ませた。

「では作業が終わりましたら総務部へお寄りください」

笑顔で会話する二人を残し、私は一人でエレベーターに乗った。

最初は怒っていたのに、完璧な宮野さんもイケメンを前にすると調子が狂うものなんだ……。私が横山さんと話したときもあんな感じだったのかな……?

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