落ちる恋あれば拾う恋だってある
「そうやって……からかわないでください……」

不機嫌そうに目を伏せる。夏帆の反応に俺は焦った。

「今のからかってると思うわけ?」

「男慣れしてない私にそう言えば簡単にヤれると思ってないですか?」

「は? なにそれ意味不明」

「私みたいな女はホテルに連れ込むのも簡単なんですよね? 椎名さんがそう言いました」

確かに言った。合コンの時も今も。

「俺が体目当てだと思ってるんだ?」

「…………」

なんてめんどくさい女だ。真剣に告白しても、卑屈すぎて気持ちを受け取るどころか信じてもらえない。

「別に体から始めてもいいんだけど」

気持ちを信じてもらえないなら、先に体を手に入れるまでだ。後からいくらでも俺に惚れさせる自信はあるのだから。

夏帆との距離を詰め、顔を近づけた。何度もそうしてきた。今度は本気で唇を奪うつもりだった。

「や、やめてください!」

夏帆は叫ぶと俺の横をすり抜け倉庫のドアへ走った。
それを追えなかった。拒否された衝撃が強すぎて。

ドアから勢いよく出ていった夏帆は戻ってくることはなかった。

「地味女うぜー……」

俺は誰もいなくなった倉庫にしゃがみこんだ。

夏帆を前にすると、焦って手を出したくなる自分が憎い。
大抵の女は俺が迫れば落ちるのに、あの恋愛初心者には怯えさせるだけなのだ。

3年前と同じだ。そして初めてだ。女に本気になったのも、狙った女に逃げられたのも。



◇◇◇◇◇



休日は久しぶりに買い物しようと電車で1時間半かけてショッピングモールに来た。
気分転換しないと椎名さんのことを考えてしまうから。今日はたくさん服を買って、おしゃれなカフェでランチするのだ。
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