落ちる恋あれば拾う恋だってある

「誰がそんな噂を……」

はっと丹羽さんの顔を見た。

「宇佐見さん……」

もしかしたら宇佐見さん本人が噂を……?

「宇佐見さんかは分からないよ。営業推進部じゃない他の部署の人かもしれないし。憶測で判断しちゃだめ」

「はい……」

「とにかく、社内で何か嫌なことを言われても気にしないこと。修一くんにも噂を否定してもらった方がいいかもね。それを言いたかったの」

「はい。相談してみます……」

「契約更新の時期でしょ?」

丹羽さんに言われて思い出した。契約社員の私は来年の春に契約更新の時期だ。このままよくない噂が広まれば契約が更新されないかもしれない。

丹羽さんには決めつけないように言われたけれど、私は宇佐見さんが嘘の噂を流していると確信している。宇佐見さんの私を見る目は本当に怖い。

やっぱり私が修一さんを取ったと思ってるんだ……。





「夏帆ちゃん、各部署から発注書のコピー全部揃った?」

「いえ、レストラン事業部がまだです」

「いつも遅いんだから……」

「私取りに行ってきます」

「いいよ、持ってこさせな」

「ついでに受付で郵便物ももらってきます。請求書も届いてるかもですし」

「じゃあお願い。ごめんねー」

「いえ、行ってきます」

私は立ち上がってフロアを出た。



すれ違う社員が私を見てすぐ目を逸らす。あるいはじっと顔を見る。今年入社した後輩まで挨拶がよそよそしい。
一体どこまでどんな風に噂になっているのだろう……。

1階の受付に行ったけれど郵便物は届いていなかった。受付の女の子だけがいつもと変わらず挨拶をして笑顔を見せてくれる。
彼女も契約社員で今年入社したばかりだからあまり社内のことが詳しくないのかもしれないが、今は変わらない態度が嬉しい。

< 80 / 158 >

この作品をシェア

pagetop