落ちる恋あれば拾う恋だってある

メガネをかけた地味な女で俺の好みとは掛け離れた容姿だが、他の誰よりも真剣に仕事を探しているのは分かった。
検索時間の制限30分をフルに使い、求人票を何枚も印刷していた。その後はパソコンがあくまで順番を待ち、また30分間求人を検索している。
帰る前には毎回窓口で数社紹介してもらい、頻繁に履歴書を送っているようだった。

真面目なやつ。高卒で就職狙いか? こういう子は早く仕事を決めてちゃんと会社のために働くんだろうな。
来週の俺、来月の俺、来年の俺は何をやってるんだ?
あの子を見ていると自分がダメな人間に思えてくる。いつまでも進めない自分が。

求人を検索し終わり、壁際のソファーに座って求人票を眺めていた。印刷してみたものの、どの会社も自分が働いている姿を想像できなかった。

隣に人が座った気配がして見ると、いつも見かける地味な女が膝に紙を置いて何かを書いていた。

今この子を見ると落ち込む……。

帰ろうと席を立った瞬間に背後の開いた窓から風が吹き込み、女の書く紙が飛ばされて俺の足元に舞い落ちた。屈んで拾ったそれはWord・Excel講習の申込書だった。同時に申込書に書かれた『北川夏帆』という名前が目に入った。

パソコン講習まで受けるなんてどんだけ頑張るんだよ。力入れすぎだろ……。今時学校でもパソコン習うだろうに。

そう思いながら地味女、北川夏帆に申込書を手渡した。

「あ、ありがとうございます……」

北川夏帆はか細い声でそう言うと、俺の顔を見て自分の顔を赤らめ下を向いた。

こういう地味な女は男に慣れていないんだろうな。

俺は無言で北川夏帆から離れて検索コーナーを出た。

ロビーを歩きながら、そういえば俺だってWordもExcelも文字の入力程度しか使えないじゃないかと思い至った。スーパーの正社員時代は発注などの簡単な入力しかできなくても問題なかった。

< 9 / 158 >

この作品をシェア

pagetop