どうぞ、ここで恋に落ちて

声がした方を振り向くと、涼しげな半袖のセーラー服を着た三つ編みお下げの女の子が目を丸くして立っていた。

一期書店の常連さんのひとり、中学生の色葉(いろは)ちゃんだ。


「ご、ごめんね、古都ちゃん。おどかすつもりはなかったんだけど……」

「いいの、いいの。私が考え事してただけだから」


私はハハハと笑って手にしていた海外ロマンス小説を元の棚に戻す。

樋泉さんのアドバイスに従ってミエル文庫の隣に移動させたそれらは、直後からお客様の注意を引くようになって、よく手に取ってもらえるようになった。

そのぶん、手にしたお客様が本来の並びとは別の場所に置いてしまうことがあるのだ。

私は今そういう本を元の並びに戻す作業をしていた。


「色葉ちゃん、夏休みなのに学校行ってたの?」

「うん、図書室で借りた本を返しに行って来たの。でも次に借りたいものが見つからなかったから、古都ちゃんのオススメを聞こうと思って」

「そっかあ」


私は作業の手を止めてうーんと唸る。

色葉ちゃんは小学生の頃からお小遣いをもらうたびに一期書店へやって来て、お気に入りの一冊を購入しては大切に抱えて帰って行くような読書好きの女の子だったって、店長が言っていた。
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