「プリマヴェーラ?」


その日の夜、閉店作業を終えた私は伊瀬さんに連れられて春町駅の近くまでやって来た。

なんでも、最近おしゃれなバーを発掘したとか。

お酒が大好きな伊瀬さんにとって、ある程度なら飲んでもあまり酔わないタイプの私は都合のいいツレなのだ。


「そう、知らなかったでしょ? 俺もこの前見つけたんだ」


わくわくした様子の伊瀬さんの足取りは軽い。

蒸し上がった大地を夏の夜の風が柔らかく包み込み、私の着ている紺色のワンピースの裾をそっと持ち上げた。


一期書店から西側には多様な飲食店が連なり、入り組んだ路地にはまだまだ知らないお店がたくさん隠れている。

伊瀬さんの言う『プリマヴェーラ』もそのうちの一軒だったみたいで、小さな看板だけが目印の隠れ家のようなそのバーは、私の行ったことのないお店だった。

彼がゆっくりと扉を押し開けるのに続いて、ひっそりと控えめに佇む外観からは想像が付かないほど、おしゃれで落ち着いた大人っぽい雰囲気の店内に足を踏み入れる。


「わ、すごい……」

「でしょ? カウンターでいい?」


私をここへ連れて来た伊瀬さんはどこか得意げで、空いていたカウンター席へと向かう。

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