シンデレラに恋のカクテル・マジック
「ひぃ、ふぅ、はぁ」

 川沿いのサイクリングロードへと向かう坂道を立ち漕ぎしていると、息が上がってくる。けれど、坂を登り切った先には、ゆったり流れる川に沿って歩道とサイクリングロードが土手の上を併走していて、風が吹き抜けて気持ちいいのだ。もちろん、走っている自転車のなかには、菜々のようなママチャリではなく、前カゴのないスタイリッシュなレース用の自転車なども多い。

 七月中旬の今、自転車を飛ばすと汗を掻くので、菜々は周囲の景色を楽しみながらゆっくり自転車を走らせた。川面では陽光を浴びた水面がキラキラと輝いていて、ベンチに座ってそれを眺めているお年寄りや、河原の公園で遊ぶ親子の姿がある。視線を川と逆方向に向けた。見えてきた中学校を過ぎてしばらく走れば、目指す業務用スーパーがある。

「あ」

 そのとき、見覚えのあるダークブラウンの外壁のマンションが視界に入ってきた。サンドリヨンのあるマンションだ。二階はダンススタジオになっていて、三階には図らずも一泊してしまった永輝の部屋がある。彼は今部屋にいるのだろうか、と思ったとき、はす向かいの公園に、ボトルを投げ上げている男性の姿が小さく見えた。
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