ひねくれ作家様の偏愛
私は苦笑いで頷く。


『仕事だからね。まあ、ある程度は』


『どこまで聞いてくれるのかな』


せせら笑うような言い方だった。私は黙っていた。


『飽くまで仕事なんですけど。協力してほしいことがあるんです』


彼が私を下に見ていようが、侮っていようが気にならなかった。
私が惚れ込んだのは彼の作品であり、彼の人間性ではない。少なくともこの瞬間までは。
逆を言えば、作品を盾にとられれば、私に断る理由はなかった。


『余所の仕事です。恋愛モノで一本、シナリオ書かなきゃならないんですよ』


海東くんが言った時、私はだからどうするということに想像がいかなかった。
彼の後ろに立ち、パソコンのディスプレイと向き合う彼の背中を見ていた。


『処女とのセックス描写アリ。でも、俺、わかんないんですよね。処女としたことないんで』


処女、セックス。

突然出てきた単語に、私は仰天した。
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