彼と私の事情
たわいもない話をしながら会社の前に着くと、

「おふくろ!」

大慌てで男性が近寄ってきた。

げっ、と衝動的にこの場から逃げたくなったけど、そうもいかない。

「…あれ?」

おばあさんを見て私を見ると、その人も目を少し見開いた。

「…三河じゃないか?」

分かるのなら仕方ない。諦めて私も挨拶をした。

「…伊東課長。おひさしぶりです。
まさか課長のお母さまだったんですね。」

「俺もびっくりした。
駅で迷子になったっていうから、迎えに行こうとしたら、大丈夫だっていうから…」

「ちょっと!あなた!…」

そのあと2人が何を喋っていたかはわからない。
正確にいえば聞こえなかった。

途中から、くらくらする気がしたけど
気のせいじゃなかったんだね。

私の意識がブラックアウトした。
< 7 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop