【1・恋かもしれない】



 朗々としたオフィスビルの建ち並ぶ街はスーツを着た老若男女で溢れ返り、せわしない雰囲気を醸し出している。そんな日本経済を支える皆さんのささやかな憩いになればと思い、この街の隅っこに私がカフェ【Apaiser(アペゼー)】をオープンさせたのは1年前。

 開店当時はなかなか安定しない客足に四苦八苦もしたけれど、1年経った今ではようやくこの街での認知度も上がり固定客も付き始めた。特にテイクアウトも出来るオリジナルランチは若いOLさんやビジネスマンに人気で、毎日60以上作るランチボックスはありがたい事に連日完売している。

 そんな訳で、売り上げも安定し従業員も以前より増えてようやく一人前の店長っぽくなってきた私、芹沢陽与子(せりざわ ひよこ)は仕事が楽しくて仕方ない毎日を送っていた。

 どうしたらもっとお客さんに喜んでもらえるメニューが出来るかな、どうしたらもっと効率よく多くのメニューをこなせるかな。日夜そんなことばかり考えている私の頭からは他の事なんかポトポト抜け落ちていて、ましてや“恋愛”なんて2文字はカフェの経営を決めた5年前からどっかに落としたまま気にも留めず暮らしている。

 だから、カフェ店長のスキルと引き換えに女子力をずんずん低下させていた私の元にある日突然“恋の予感”なんてものが訪れても、こちとら気付くまで時間を要するのは仕方が無いと言えよう。うん、仕方が無かったのだ。

 

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大人  アラサー  年下  ときめき  カフェ  バリスタ  行政書士  ほのぼの 

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