大人の恋はナチュラルがいい。

***

「昨日のハーブチキンボックス、すごく美味しかったです。おかげで午後の仕事に気合が入りました」

 そんな嬉しい事を口にしながら店頭に設置したテイクアウト用の売り場で、日替わりランチボックスとメイソンジャーサラダを若い男性客は購入した。もう3ヶ月になるだろうか、ほぼ毎日うちへランチを買いに来てくれる常連さんで、いつも愛らしい笑顔と共に嬉しい一言を残して行ってくれるニクいお客さんだ。最近では時々仕事帰りにもお店に寄ってエスプレッソなぞを飲んでいく事もある。

「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえるとこちらも気合入ります。もっと美味しいもの作ってお客さんに元気になってもらうぞーって」

「あはは、ポジティブですね。そういう想いで作ってるから、きっとここのランチは何処よりも美味しいんだろうな」

「ふふふ、ありがとうございます」

 見たところ歳の頃は20代半ばくらいだろうか。優しげで何処か落ち着いた雰囲気の目元に、口角の少しだけ上がった可愛らしい口。仄かに茶色掛かった髪はふんわりして触れたくなるほど柔らかそう。全体的にとてもソフトな印象だけど、今時の若者らしく背が高く、細いなりに肩幅なんかもあって、その辺は男らしい。

 それにしてもなんと達者なリップサービスか。思わずクッキーの小袋でもおまけしたくなってしまう。彼はきっと営業職に違いない。

「それじゃあ、また明日」

 オフィス街に差し込む陽光に笑顔を煌かせながら、常連くんは爽やかに去っていった。さりげなく明日も買いに来てくれる約束を残していくなんて、本当にいいお客さんだ。
 
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